支倉凍砂「狼と香辛料」を買ってきた
「次はファンタジーがクル!という言説があったが。」に対していくつか記事を書こうと思うのだけど、 その第1弾として。
支倉凍砂「狼と香辛料」 というのは正統派なファンタジーに近い世界観なんですけど、 ある種のリアリティがあると思うんですね。 それは何かというと、たぶん一種の無常観です。 町があっても怪物に襲われて滅びてしまう、 農業やっても天候次第、というのが大前提にあって、 だったら馬鹿正直に生きても死んでは意味ないから 他人を騙してでも生き残ろうと。 で、限られたパイの奪い合いになってくるんですね。
僕の考える正統派ファンタジーというのは、 歴史的な経緯から、正義と悪との対立を主軸にしたものじゃないかと思うんですけど、 それだとしんどいから、うまいこと回避しているわけです。 正義と悪との対立を主軸にして、しかも新鮮なファンタジーがあれば読みたいですけど。
で、連想したのが「千年樹の町―シンフォニアグリーン」です。 ある種の専門家が主人公とか、 専門家がその仕事をするのが主軸になっているのが共通点かな、と。 あと自然が厳しいからうっかりすると町が滅びてしまう危っかしさも似てます。 違いは主人公の立ち位置で、 狼と香辛料のロレンスは商人で、人相手にパイの奪い合いをする人、 シンフォニアグリーンのエンやリィンは開拓者で、 自然相手に人間の取り分を大きくしようとしている人なんですね。
狼と香辛料に戻りますけど、 逆によくわかんないことの1つが主人公の考え方で、 危い橋でも平気で渡ってるように見えるんですね。 いろいろ考えた末の結論だとは思うんですけど、 何を考えてその結論に至ったのかよくわからない。 比喩でいうと強盗がナイフを持っていると。 普通なら逃げますよね。 立ち向かうとしたら、この主人公は強いから大丈夫だとか、 逃げたいけど事情があるんだとか説明があってしかるべきだと思うんですけど、 それを主人公だから立ち向かうんだ、とやってしまうような危うさがあります。
もう1つは社会制度がどうなっているのかと。 取引において騙される方が悪いんだということみたいですけど、 そんな露骨に騙したら信用はなくさないのかな、とか。 別の件について、その場はごかませても、 長期に渡って収支を調べたら犯罪が発覚するでしょ、とか。 こっちはリアリティに関わることだと思うんですけどねえ。